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名古屋のまちづくりや都市開発について考察します。

JR・名鉄「笹島新駅」設置構想

 名古屋駅の南に位置し、その微妙な距離感からいまいち存在感が発揮できていないささしまライブ・名駅南地区。当ブログでは、その両地区発展の起爆剤として、地区を通過するJR東海道線・中央線、名鉄名古屋本線に新駅を設置すべきであると考えています。

 本稿では、その笹島新駅の設置構想について書いていきたいと思います。

笹島新駅の効果

ささしまライブ・名駅南地区の発展に寄与

 名駅地区の南側に位置するささしまライブ・名駅南地区は、名古屋駅の近隣にありながらその微妙な距離感によって発展が阻害されてきた地区といえます。

 名古屋市は、2027年までの完成を目指し、これらの地区へ伸びる地下道を建設して徒歩によるアクセスを強化する方針ですが、地区の交通事情を劇的に改善するためには、やはり抜本的な交通機関の整備が必要であるように思います。

 特に課題となるのが、周囲に駅がない名駅南地区の交通アクセスの確保です。

 名駅南地区は、名駅地区に隣接しながら、長年目立った再開発が行われず、現在も駐車場や物流倉庫などの低密度な土地利用が随所に見られる状況となっています。近年は一部でタワーマンションの建設が始まりましたが、名古屋駅に近い地区でありながら、全体としては閑散とした印象を受けざるを得ません。

 JR・名鉄笹島新駅の設置位置は、ささしまライブ・名駅南地区のちょうど中心部となります。駅設置が実現すれば、特に名駅南地区において土地の高度利用を促進するなどの効果が期待できます。

名古屋駅・地下鉄東山線の混雑緩和

 笹島新駅の設置構想に関連し、当ブログでは、地下鉄上飯田線を延伸してあおなみ線まで接続する計画を支持しています。当案における上飯田線延伸計画は、平安通駅から栄、柳橋付近を経由し、笹島新駅へ接続するという案ですが、これにより、笹島新駅は、名古屋駅を補完する新たなターミナル駅として位置付けることができます。

kusanonetink.hatenablog.jp

 実際のところ、笹島新駅をJR・名鉄線のみで設置した場合、その効果はかなり限定的です。というのも、駅の利用客が、笹島新駅の周辺を目的地とするごくわずかな規模に限られるためです。

 笹島新駅の設置効果を最大限に高めるためには、栄方面から地下鉄を延伸して笹島新駅と接続させることが最も効果的であると考えます。これにより、栄方面へ向かう旅客を名古屋駅から分散させ、名古屋駅と地下鉄東山線の混雑を緩和させることができます。

 当ブログの見通しとしては、都心の再開発が進むことにより、今後は名古屋駅東山線の混雑はさらに増すものと考えています。また、リニア中央新幹線の開業によって交流人口が増加すれば、その傾向にはより拍車がかかるでしょう。笹島新駅は、地下鉄延伸と組み合わせることで、過密する名古屋駅東山線のバイパス機能を持たせることができるという点でも有意義であると考えています。

駅設置の実現可能性

 実際のところ、ささしまライブ・名駅南地区を通過するJR・名鉄線の線路にはホームを設置する余裕はなさそうです。このため、現状の線路にそのまま駅を設置することは難しいでしょう。

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笹島新駅設置予定地 新幹線・JR在来線・名鉄の線路間にはホームを置く余裕がない

 駅の設置方法としては、名鉄名古屋本線山王ー名古屋間を地下化し、線路間隔の拡張余地が生じた地上にJR東海道線・中央線の新駅を、地下には名鉄名古屋本線の新駅をそれぞれ設置する方法が考えられます。

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名鉄名古屋本線のトンネル区間を延長

 また、笹島新駅に隣接する商業施設「マーケットスクエアささしま」は、新駅の開業に合わせて再開発を行い、駅ビルとするのが望ましいと思います。駅ビルと新駅の地上部分には東西自由通路を設け、ささしまライブ地区と名駅南地区の往来を活性化させます。

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笹島新駅と駅ビルの位置

最後に

 名古屋市は、ささしまライブ地区への交通アクセスについて、名駅地区から地下道を伸ばして対応することとしていました。しかし、地下道整備事業は長期にわたって棚上げされ、事業化の目処がついたのは2021年(令和3年)度に入ってからとなりました。

 その際、地下道の事業化に付される形で、ささしまライブ地区への新駅設置についても検討する調査が行われることとなりました。

 実際のところ、新駅を設置するためには少なくともJR東海道線、中央線、名鉄名古屋本線のいずれかを地下化しなければホーム用地を確保することは困難で、当然、そうなれば大掛かりな工事が伴い、事業費も跳ね上がることでしょう。また、列車運行本数が多い名古屋駅金山駅間に新駅を設置することはJR東海名鉄ともにダイヤへの影響が大きく、事業者からの同意が得られないことも考えられます。

 実のところ、この新駅設置可能性についての調査・検討は、地下道の整備では名駅南地区の発展に寄与しないと主張して事業を遅滞させた河村たかし名古屋市長に対し、地下道の早期実現を図るために市当局が提案したものだと思っています。このため、当ブログでは、はじめから「設置見込みなし」との検討結果が出されるものと考えています。

 しかしながら、当ブログとしては、もしも本当に笹島新駅が設置されたならば、ささしまライブ・名駅南地区は、東京駅に隣接する有楽町地区のように、独自の特徴を持ったエリアとして名駅地区から独立して発展できるようになると考えています。そうなれば、名古屋市の都市としての厚みは増し、都市全体の魅力も高まることでしょう。

 調査・検討の結果がいつ公表され、今後のまちづくりにどのように反映されるのかは全くわかりませんが、当ブログでは、遠くない将来、笹島新駅が設置されることを強く期待しています。

名駅・栄と並ぶ一大拠点へ 名古屋の副都心・金山駅周辺を考える

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金山駅周辺(Googleマップより)

 金山駅は、JR東海名鉄、地下鉄の3事業者計5路線が乗り入れ、1日約46万人が利用する国内有数のターミナル駅で、中部地方においては名古屋駅に次ぐ規模のものです。

 近年の金山駅は、単に乗換拠点であるだけでなく、中部国際空港と直結するアクセスの良さから、名古屋第2の玄関として存在感を高めつつあります。名古屋市金山駅の拠点性を重視しており、2017年には、駅周辺のまちづくりについての方向性をまとめた「金山駅周辺まちづくり構想」を策定して、駅周辺の賑わい創出に向けた取組みを進める方針を打ち出しました。

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土地利用イメージ(金山駅周辺まちづくり構想より)

 当ブログでも、金山駅周辺地区の発展にはとても期待をしています。

 名古屋ではこれまで、栄が唯一で最大の中心地でしたが、1999年のJRセントラルタワーズ開業以降、相次ぐ超高層ビルの開業により、今では名駅と栄という2つの拠点が切磋琢磨し合う時代となりました。この結果、名古屋の都市としての魅力は総合的に高まり、再開発が遅れていた栄でも、名駅に負けじと意欲的な再開発が行われるようになりました。

 このような経緯から、金山駅周辺に期待したいことはただ1つ。それは、名古屋の副都心として、名駅や栄と肩を並べる拠点性を備えることです。金山駅周辺が名駅や栄にも負けない拠点性を持つことになれば、名古屋という都市の厚みはさらに増し、それぞれの地区が切磋琢磨して魅力を高め合うことにつながるものと考えます。

 それでは、金山駅周辺が名駅や栄と肩を並べる拠点性を持つためには、どんな事業や取組みが必要になるのでしょうか。すでに検討されている事業にも触れながら、当ブログなりの考えをまとめてみました。

駅北口における大規模再開発の実施

 まず最も必要だと考えるのは、金山駅北口に隣接するアスナル金山の大規模再開発です。

 駅北口に隣接するアスナル金山は、2005年に開業した複合商業施設で、現在も金山駅周辺の賑わいの核として機能しています。飲食店や物販店だけでなく、施設内のイベントスペースでは人気アイドルやロックバンドのフリーライブが開催されるなど、駅周辺のイメージアップにも大きく寄与してきました。

 当初、アスナル金山は2020年までの暫定施設として開業しましたが、駅周辺のまちづくりについて検討を進めるため2028年まで存続することとなり、最近では大幅なリニューアルも行われています。

 名古屋市は、金山駅周辺まちづくり構想の中で、アスナル金山がある駅北口については広域避難場所としても活用可能なオープンスペースを中心に、商業施設やバスターミナル、タクシー乗り場などを整備することとしています。

 しかし、当ブログは、アスナル金山のある区画には、金山駅周辺のシンボルとなるような施設で、かつハイグレードな都市機能を併せ持つ複合施設を誘致することが良いと考えます。具体的には、バスターミナルや商業施設、オフィス、ホテルを内包する駅直結の複合型超高層ビルの建設です。

 イメージとしては、2019年11月に開業した渋谷スクランブルスクエア東棟(東京都渋谷区)でしょうか。まさに、駅に直結し、様々な機能を内包したシンボリックで話題性のある施設です。

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渋谷スクランブルスクエア東棟(Wikipediaより)

市民会館(日本特殊陶業市民会館)の再整備

 名古屋市は、老朽化と狭隘化が問題となっている市民会館(日本特殊陶業市民会館)について、隣接する古沢公園への移設を含めた建替えを検討してきました。しかし、その後、現在の市民会館を改築しながら、隣接する古沢公園にも施設を拡張する案が示されたことで、金山駅周辺まちづくり構想にあった、市民会館のある区画に商業施設やオープンスペースを整備するという考え方は白紙になったものと思われます。

新市民会館を中核に/20年度末までに方向性/名古屋市金山駅周辺まちづくり建設通信新聞デジタル(2020-10-28 12面)

 名古屋市住宅都市局は、2020年度末までに金山駅北口地区を対象とした「金山駅周辺まちづくり」の方向性をまとめる。都市整備部まちづくり企画課によると、「金山の拠点性を高めるため、古沢公園と市民会館、アスナル金山のエリアごとにまちづくりを検討する。改築事業を展開する市民会館は『中核施設』として、名古屋の文化芸術の発信・集積地に位置づける予定だ」という。
 市民会館改築事業などを踏まえ、再整備を段階的に進める。17年に策定した「金山駅周辺まちづくり構想」をもとに調査・検討を進め、より具体的な整備の方向性などを示す。現在は「金山地区開発事業化検討調査業務委託」を三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)に委託中。履行期間は21年3月22日まで。
 また市民会館の改築に向けて市は市民会館の整備検討懇談会(座長・黒田達朗椙山女学園大現代マネジメント学部教授)を設け、議論を進めている。現市民会館(中区金山1−5)の老朽化などの課題を解消するため、現地と古沢公園(同1−3)などを含む敷地約5200㎡に新施設を建設する。
 21年3月ころに市民会館改築事業の基本構想を策定する。
 現市民会館は改築し大ホール(客席数2000−2200席)、演劇などに対応する第3ホール(800−900席、立ち見で1700−1800人程度)を、古沢公園には中ホール(1300−1500席)を整備する。

 

新市民会館を中核に/20年度末までに方向性/名古屋市の金山駅周辺まちづくり | 建設通信新聞Digital

 理想を言えば、市民会館のある区画は金山駅周辺で最も広い市有地であることから、商業施設やイベントスペースを備えた賑わいの核としての機能を求めたかったところですが、その前提となる古沢公園への市民会館移設は、敷地面積から相当無理があったと思われるので、高品質な劇場機能を確保するためには妥当な判断だったものと思います。

 一方で、市民会館は劇場であり、常時集客や賑わいを生む施設ではありません。そのため、改築する新しい市民会館には、劇場機能だけでなく、イベントの開催が可能なオープンスペースや最低限の商業施設を設けるなどして、金山駅周辺の恒常的な賑わい創出に資する機能を持たせることが重要であると考えます。

 モデルとする施設としては、東京国際フォーラム(東京都千代田区)でしょうか。東京国際フォーラムはコンサートホールや多目的ホールからなるコンベンションホールですが、敷地内にはオープンスペースがあり、そこには飲食店やベンチも設けられています。このため、施設内でイベントが開催されていない日でも多くの人が立ち寄ることのできる施設になっているのが特徴です。

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東京国際フォーラムWikipediaより)

 長距離高速バス専用ターミナル(仮称「バスタ金山」)の整備

 これは金山駅周辺まちづくり構想には含まれていないものですが、名古屋市は、金山駅の線路上に長距離高速バス専用のターミナル(仮称「バスタ金山」)を設置することについて検討しているようです。イメージとしては、新宿駅に開業したバスタ新宿といったところでしょうか。これは2020年6月の市議会本会議で明らかにされたものです。

 現在、名古屋を発着する長距離高速バスの大半は名古屋駅に集中していますが、相次ぐ格安高速バスの参入により、名古屋駅周辺ではバスの発着場所不足が課題となっています。金山駅への長距離高速バス専用のターミナル整備は、長距離高速バスの発着場所を名古屋駅金山駅とに分散させることで、名古屋駅周辺への集中を防ぐ狙いがあるのでしょう。

 現実的な「バスタ金山」の設置位置は、金山駅の構造物やバスの待機・転回スペースなども考慮すると、金山駅直上ではなく、伏見通の西側になるのでしょうか。付近の道路構造も考慮に入れると、設置イメージは次のようなものになると予想しています。

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バスタ金山(仮称)設置イメージ

 このような形で「バスタ金山」を整備した場合、伊勢湾岸自動車道名古屋高速3号大高線・4号東海線を経由して名古屋市内の南方向から進入する高速バスは、名古屋駅に到着するよりも距離と所要時間を短縮できます。乗り場を集約することで利便性も向上することから、バス事業者、利用者双方にとってメリットがある構想と言えそうです。

 ただ、線路上に構造物を建設するという大掛かりな工事が必要になるため、実現に向けた技術的な課題は相当なものと思われます。

 なお、バスタ事業は、バスタ新宿の成功を受け、国土交通省が全国に整備を推進する方針を打ち出したものです。新宿駅に続き、現在は東京都の品川駅、神戸市の三ノ宮駅神戸三宮駅周辺のほか、札幌駅、仙台駅、新潟駅、呉駅、大宮駅、長崎駅でも導入に向けた検討が行われているようです。名古屋市もこれに飛びついた感が否めません。おそらく将来的には国の補助金事業となることを睨んでいるのでしょう。

 とは言え、名古屋駅に集中する長距離高速バスの一部を金山駅に振り向けることには一定の効果が見込めると思いますので、技術的な課題を克服し、実現されることを期待しています。

【国交省】交通結節拠点化「バスタプロジェクト」全国展開へ 官民連携で高速バス乗降場を集約 | 建設通信新聞Digital

最後に

 金山駅で電車を降りると、改札付近の混雑や駅前の賑わいに驚かされます。駅付近の道路にも多くの飲食店が立ち並び、夕方から夜にかけての時間や週末にはたくさんの人が行き交うのが金山駅の特徴です。その賑わいは首都圏の駅前と比べても決して劣っておらず、国内有数のターミナル駅としての風格を感じられます。

 金山駅は、1989年、名鉄金山橋駅の移設とJR東海道線金山駅の開業によって誕生した新しい駅で、その経緯から金山総合駅とも呼ばれます。総合駅となった後の発展は目覚しく、駅の乗降客数の増加に伴って、1999年には駅南口に高さ130mの超高層ビル・金山南ビルが、2005年には駅北口にアスナル金山がそれぞれ開業し、駅周辺の賑わいも増していきました。

 しかしそれ以降、金山駅周辺の開発事業はいったん停滞し、現在に至ります。

 これだけ巨大なターミナル駅でありながら、2020年までの15年間、大規模な再開発が行われることがなかったのは、正直不思議でなりません。その間に名駅は国内屈指の超高層ビル街となり、名駅への対抗から、栄でも最近になって再開発事業の動きが活発になっています。

 複数路線の乗降客数を合計した数字であるとは言え、1日に約46万人が利用する駅というのは、首都圏を除けばそうそうあるものではありません。金山駅周辺の再開発は、それだけの規模を持つ駅周辺でのまちづくりです。

 金山駅は、名古屋駅に次ぐ名古屋第2の玄関口であり、そして名駅、栄に並ぶ名古屋の一大拠点です。ライバルは多い方がいいですし、都市の魅力を厚くする上でも、拠点となる地区の数は多い方がいいでしょう。

 将来、金山駅が名古屋の副都心として目覚しく成長を遂げることを強く期待しています。

名古屋市の新しい路面公共交通システム「SRT構想」を考える

 名古屋市は、将来のリニア中央新幹線の開業を見据え、市中心部の回遊性向上を目的とした新しい路面公共交通の導入を目指しています。その名も、SRT(スマート・ロードウェイ・トランジット)

 平成31年(2019年)に策定された「新たな路面公共交通システムの実現をめざして(SRT構想)」により、正式に導入の方向性が示されました。

www.city.nagoya.jp

 SRTは従来からある路面公共交通システムとは異なるようで、現段階では具体的な姿はあまり見えません。SRT構想の中でも、SRTとは、LRTとBRTを組み合わせた新しい路面公共交通システムと表現されているのみです。

 いちおう、SRT構想の中でにはシステムの具体像が示されているので、これを簡単にまとめてみました。

SRTの具体像

1 車両

 SRTの車両は、広い車内空間を確保し、バリアフリーにも配慮したフラットな空間となるようです。このため、SRTに用いられる車両の特徴は、バスよりもLRTに近いものとなりそうです。タイヤベースによる交通システムであるため、外見は連節バスに似てくるものと予想されます。

 なお、フランス・メスには「BusTram」と呼ばれるタイヤベースの公共交通機関があり、これがLRTの車両にとても似ています。SRTの車両はこのような形に近くなりそうです。

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フランス・メスのBusTram(Wikipediaより引用)

 また、車両には運転手を補助する運転補助機能を搭載するほか、連節車両や隊列走行により大量輸送に対応するとされています。この他、環境負荷低減のため、走行時のCO2排出量が少ない燃料電池車を採用するそうです。

2 走行空間

 SRTの走行空間にはピクトグラムや走行レーンの着色を行い、街の中での存在感を高めるとされています。また、歩道車線側の専用レーン化や公共交通の走行を優先させる仕組みを検討し、渋滞等による運行の遅延を低減するともされています。

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走行空間のイメージ

3 乗降・待合空間

 SRTの乗降場所は、街の回遊拠点として機能するよう、デザイン性の高い上屋を設け、公共Wi-Fiの整備、情報提供端末の設置などを行うとされています。車両と乗降場所との間の段差が小さくなるよう配慮し、シームレスでバリアフリーな乗降環境を確保するともされています。

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乗降・待合空間のイメージ

4 路線

 SRTのルートは、名駅、栄、大須や名城地区を周遊する周回ルート、名駅・栄の2地区を直接結ぶ東西ルートの2路線が検討されています。

5 運行サービス

 SRTは、基幹路線として、早朝から夜間まで、概ね10分以内の間隔を基本とした高頻度で運行される予定です。車内での現金収受を減らすため、料金収受はICカード等のキャッシュレス決済や、乗降・待合空間への券売機設置、携帯端末による決済を活用するとされています。

 

 以上が、現時点で読み取れる大まかなSRTの具体像です。

 個人的な印象としては、すでにフランス・ルーアンで導入されているBRT(TEORにかなり似ているという印象を受けました。フランス・ルーアンのBRTシステムについては、下記のリンクで詳細に述べられています。

www.fujii.fr

www7b.biglobe.ne.jp

 フランス・ルーアンのBRTシステムでは、連節車両による大量輸送と高頻度運行、シームレスでバリアフリーな乗降環境の確保、走行レーンの専用化、自動運転技術による運転補助の仕組みも導入されるなど、名古屋市が提唱するSRTの姿にかなり近い運用が行われているようです。

 このように見ると、名古屋市が提唱するSRTとは、諸外国の都市で導入されているBRTの進化版と言ったところになるのではないでしょうか。

名古屋市における路面公共交通の必要性

 ところで、なぜ、名古屋市は新たな路面公共交通システムの導入について検討を始めたのでしょう。名古屋市の都心には、路面公共交通がなくとも地下鉄の路線が走り、これを使えば移動には困らないようにも思います。

 この点についても、先のSRT構想では、整備の必要性を次のように述べています。

 SRT構想は、名古屋市の都心は自動車交通を中心とした幅員の広い道路により、人の流れや賑わいの連続性が分断されていると指摘します。また、都心内の移動について、特に地下鉄による移動には課題があるとし、具体的には、東山線名古屋駅ー栄駅間で慢性的な混雑が生じていること、大須地区と名城地区への移動には乗り換えが必要であることを指摘しています。

 他にも、路線バスは不慣れな人にとっては乗り場や行き先がわかりにくいこと、地下鉄やバスによる移動は重い荷物を持った観光客や高齢者にとって負担が大きいことを挙げ、これらの課題を解消し、名古屋市の魅力向上とリニア中央新幹線の開業によって増加が見込まれる来訪者の利便性を高めることが必要であるとされています。

 確かに、名古屋駅から名古屋城、あるいは大須へ地下鉄で移動する場合、必ず1回、乗り換えが必要になります。

 また、観光客が多く利用する地下鉄東山線は、駅構内や車両が狭く常に混雑していますし、そのバイパス路線である地下鉄桜通線は、駅が地下深くにあるため、階段やエスカレーターによる移動距離が長くなっています。こうした点は、キャリーバッグや重い荷物を持った観光客にとっては不便であると言わざるを得ません。

 このような事情を踏まえると、都心を最小限の労力で移動できる路面公共交通システムには、一定の需要がありそうです。

 つまり、SRT構想とは、地下鉄や市バスよりも使いやすい、便利な公共交通機関を整備する構想なのです。

 実現に向けた課題は?

 SRT構想は、名古屋市内の魅力と利便性を向上させる仕掛けであり、当ブログも実現を楽しみにしています。2020年10月には、連節バスと燃料電池車を用いた走行実験をが行われ、すでに実現に向けた具体的な事業が進められています。

 一方で、SRT構想を参照した感想としては、正直なところ克服すべき課題が多いと感じざるを得ません。主なものは、次に指摘するとおりです。

1 交通事故の防止策

 名古屋市の都心は幅員の広い道路が東西南北に走り、交通量も多くなっています。とりわけ、何車線もある交差点での右折は、車体の大きなSRTには厳しい走行環境となるでしょう。

 SRT構想では、SRTの車両は道路の歩道車線側(左端)を走行するとされています。この場合、路上駐車された車両が障害となったり、右折のための車線変更時に他の車両と接触する可能性が拭えず、安全な走行空間をどう確保するかが課題となります。

2 料金収受の方法

 バスシステムにおいて大量輸送を指向する場合、料金収受の方法がネックになります。

 バスは一般的に、1つの扉から乗降し、その乗降口で料金収受を行うため、料金収受にトラブルがあるとその対処のために発車が遅れます。よくICカード接触不良や残高不足、両替対応のために路線バスの発車が遅れることがありますが、この問題は、大きな車両で多くの人を運ぶ場合により顕著となります。とりわけ、SRTは名古屋市内の移動に不慣れな観光客の利用を多く見込むことから、料金収受に係るトラブルが多くなると予想されます。

 また、SRTは、一度に多くの人の乗降を行うことができるよう、複数の扉から同時に乗降する方法が検討されているようですが、その場合、それぞれの扉で生じた料金収受のトラブルに速やかに対処できる仕組みが必要です。路線バスでは、料金収受に生じたトラブルには運転手が対応しますが、これは料金収受を運転席の隣で行うからできることです。

 つまり、SRTでは、遅延や発車できないというトラブルを未然に防ぐため、トラブルの少ない料金収受の仕組みとトラブルの際にも速やかに対応できる対策を整える必要があります。

SRTの課題を克服する方法

 以上に指摘した課題は、SRTの導入において克服すべき課題のごく一部であると思いますが、それらの中でも筆者が、特に「どうするんだろう」と感じたものです。

 SRTの具体的な導入方法は、今後、名古屋市が検討していくことになりますが、個人的にこのようにすればこの課題は解消できるのではないかと思う方法がありますので、これについてもお示しすることとします。

1 中央走行レーンの採用

 SRT構想では、乗降のしやすさなどから、SRTの走行空間を車道歩道側としていますが、この場合、路上駐車への対応や右折時の安全性の問題といった難しい課題を抱えることになります。思うに、こういった課題を抜本的に解決するためには、SRTは道路中央を走行させ、他の道路交通から切り離された走行空間を確保することが必要なのではないでしょうか。

 道路中央を走行する場合、他の道路交通から切り離された走行空間の確保が容易ですし、右折のために車線変更する必要もありません。すでに名古屋市では、基幹バス新出来町線において中央走行方式が採用されていますし、これをグレードアップする形でSRTに導入することは十分可能であると考えます。

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道路の中央を走行するBRT(パキスタン・カラチ)

2 都心における交通量の抑制

 中央走行レーンを採用した場合、必然的に道路の車線数は削減され、交通混雑が激しくなります。この影響を最小限にするためには、都心へ乗り入れる自動車をできる限り抑制する取組みが必要になるでしょう。

 この点については、少々大胆なものになりますが、都心にあるコインパーキング等には「駐車場税」を課すといった方法により、都心に流入する自動車を抑制する方策を検討する必要があると考えます。

3 改札を用いた料金収受 

 先にも述べたとおり、SRTでは1つの車両で大量の乗客を輸送することから、乗降は複数の扉による方法が検討されています。この点については、料金収受のトラブルを防止するため、車両で料金を収受するのではなく、乗降場所に改札を設け、あらかじめ料金収受を済ませることが適切であると考えます。

 例えば、乗降場所にICカードリーダーを設置し、乗車前にICカードで料金収受を行うようにすれば、あとは車両に乗り込むだけです。運賃を均一にすれば降車時にも料金支払いが生じないため、料金収受のトラブルにより発車が遅延することはありません。

 なお、SRTにおける料金収受は、ICカードによってのみ行うのがよいと考えます。

 券売機によって切符を販売する場合、券売機の現金管理や切符の補充、切符に対応した改札機の設置が必要になりますが、ICカードで料金を収受する方法なら、究極的にはICカードリーダーを設置するのみでよく、券売機の現金管理や切符の補充を行う必要がありません。これに関連し、ICカードへの残高チャージはSRTの乗車前に済ませていることを前提とし、乗降場所にはチャージ機などを設置しないものとします。

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改札を設置した乗降場所のイメージ(ブラジル・クリチバ

 運行ルート

 最後に、SRTの運行ルートについて考えてみようと思います。

 SRTの具体的な運行ルートは2020年10月時点で未定ですが、SRT構想では、名城地区・大須地区などを回遊する周回ルート、名古屋駅と栄を結ぶ東西ルートの2系統が検討されています。

 当ブログではそれぞれのルートについて、概ね次のようなルートになるのではないかと予想(というよりも期待)しています。 

1 周回ルート

 周回ルートは、名古屋駅を起点として、観光客が多く訪れる名城地区や大須地区付近を通過するルートとなる予定です。また、都心全体の回遊性を高めるため、地下鉄駅から離れた観光スポット付近にも乗降場所が設けられるとのことです。

 当ブログでは、名古屋市科学館のある白川公園、レトロな街並みが人気の円頓寺・四間道の周辺に乗降場所が設置されるのではないかと予想しています。

 また、安全な走行空間を確保するためには幅員の広い道路を走行することが望ましく、都心でも特に幅員の広い桜通や伏見通、若宮大通は、運行ルートの有力候補であると考えています。

2 東西ルート

 2020年10月、広小路通の名駅ー栄間において、連節バスと燃料電池バスを走行させる実証実験が行われました。このことから、東西ルートは広小路通を走行することがほぼ確定しているものと予想します。

 道路の幅員から考えると、広小路通の北を並走する錦通が最適であると思われますが、沿道の賑わいやSRTに期待されるシンボル性を考慮すると、運行ルートとしてふさわしいのは、都心のメインストリートとして定着している広小路通でしょう。

 なお、当ブログが提案する東西ルートは、運行区間の終点を千種駅とします。

 これは、栄地区以東の広小路通にもホテルやライブハウスなどが点在していることから、栄地区の賑わいをさらに東方向へ波及させることを目的として、東西ルートをさらに延長することにしたものです。

最後に

 2027年以降に予定されるリニア中央新幹線の開業に向け、名古屋市の都心では、今後も都市の魅力を高める様々な取組みが進められます。名駅や栄では民間企業による大規模な再開発事業が計画され、都心を移動する公共交通機関の需要は高まっていくことでしょう。

 新たな路面公共交通システムとして導入されるSRTは、そうした需要の高まりに応えながら、都心の交通利便性を飛躍的に高める効果が期待されます。

 路面公共交通は、近年、国内各地で注目されるようになり、富山県富山市や栃木県宇都宮市ではLRTを活用したまちづくりが進められている他、東京都も臨海部と都心を結ぶBRTを2022年以降に本格的に運行する予定です(2020年10月現在ではプレ運行中)。

 このような流れの中で、名古屋市LRTやBRTとは異なる先進的な路面公共交通システムの導入を掲げたことは、とても楽しみなことだと感じています。

 SRTの開業目標は2027年以降とまだまだ先ですが、これからの名古屋の変化をリードする存在として、今からその実現を心待ちにしています。