クサノネシンクタンク

暮らす人の視点から、名古屋のまちづくりや都市開発について考察します。

名駅・栄と並ぶ一大拠点へ 名古屋の副都心・金山駅周辺を考える

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金山駅周辺(Googleマップより)

 金山駅は、JR東海名鉄、地下鉄の3事業者計5路線が乗り入れ、1日約46万人が利用する国内有数のターミナル駅で、中部地方においては名古屋駅に次ぐ規模のものです。

 近年の金山駅は、単に乗換拠点であるだけでなく、中部国際空港と直結するアクセスの良さから、名古屋第2の玄関として存在感を高めつつあります。名古屋市金山駅の拠点性を重視しており、2017年には、駅周辺のまちづくりについての方向性をまとめた「金山駅周辺まちづくり構想」を策定して、駅周辺の賑わい創出に向けた取組みを進める方針を打ち出しました。

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土地利用イメージ(金山駅周辺まちづくり構想より)

 当ブログでも、金山駅周辺地区の発展にはとても期待をしています。

 名古屋ではこれまで、栄が唯一で最大の中心地でしたが、1999年のJRセントラルタワーズ開業以降、相次ぐ超高層ビルの開業により、今では名駅と栄という2つの拠点が切磋琢磨し合う時代となりました。この結果、名古屋の都市としての魅力は総合的に高まり、再開発が遅れていた栄でも、名駅に負けじと意欲的な再開発が行われるようになりました。

 このような経緯から、金山駅周辺に期待したいことはただ1つ。それは、名古屋の副都心として、名駅や栄と肩を並べる拠点性を備えることです。金山駅周辺が名駅や栄にも負けない拠点性を持つことになれば、名古屋という都市の厚みはさらに増し、それぞれの地区が切磋琢磨して魅力を高め合うことにつながるものと考えます。

 それでは、金山駅周辺が名駅や栄と肩を並べる拠点性を持つためには、どんな事業や取組みが必要になるのでしょうか。すでに検討されている事業にも触れながら、当ブログなりの考えをまとめてみました。

駅北口における大規模再開発の実施

 まず最も必要だと考えるのは、金山駅北口に隣接するアスナル金山の大規模再開発です。

 駅北口に隣接するアスナル金山は、2005年に開業した複合商業施設で、現在も金山駅周辺の賑わいの核として機能しています。飲食店や物販店だけでなく、施設内のイベントスペースでは人気アイドルやロックバンドのフリーライブが開催されるなど、駅周辺のイメージアップにも大きく寄与してきました。

 当初、アスナル金山は2020年までの暫定施設として開業しましたが、駅周辺のまちづくりについて検討を進めるため2028年まで存続することとなり、最近では大幅なリニューアルも行われています。

 名古屋市は、金山駅周辺まちづくり構想の中で、アスナル金山がある駅北口については広域避難場所としても活用可能なオープンスペースを中心に、商業施設やバスターミナル、タクシー乗り場などを整備することとしています。

 しかし、当ブログは、アスナル金山のある区画には、金山駅周辺のシンボルとなるような施設で、かつハイグレードな都市機能を併せ持つ複合施設を誘致することが良いと考えます。具体的には、バスターミナルや商業施設、オフィス、ホテルを内包する駅直結の複合型超高層ビルの建設です。

 イメージとしては、2019年11月に開業した渋谷スクランブルスクエア東棟(東京都渋谷区)でしょうか。まさに、駅に直結し、様々な機能を内包したシンボリックで話題性のある施設です。

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渋谷スクランブルスクエア東棟(Wikipediaより)

市民会館(日本特殊陶業市民会館)の再整備

 名古屋市は、老朽化と狭隘化が問題となっている市民会館(日本特殊陶業市民会館)について、隣接する古沢公園への移設を含めた建替えを検討してきました。しかし、その後、現在の市民会館を改築しながら、隣接する古沢公園にも施設を拡張する案が示されたことで、金山駅周辺まちづくり構想にあった、市民会館のある区画に商業施設やオープンスペースを整備するという考え方は白紙になったものと思われます。

新市民会館を中核に/20年度末までに方向性/名古屋市金山駅周辺まちづくり建設通信新聞デジタル(2020-10-28 12面)

 名古屋市住宅都市局は、2020年度末までに金山駅北口地区を対象とした「金山駅周辺まちづくり」の方向性をまとめる。都市整備部まちづくり企画課によると、「金山の拠点性を高めるため、古沢公園と市民会館、アスナル金山のエリアごとにまちづくりを検討する。改築事業を展開する市民会館は『中核施設』として、名古屋の文化芸術の発信・集積地に位置づける予定だ」という。
 市民会館改築事業などを踏まえ、再整備を段階的に進める。17年に策定した「金山駅周辺まちづくり構想」をもとに調査・検討を進め、より具体的な整備の方向性などを示す。現在は「金山地区開発事業化検討調査業務委託」を三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)に委託中。履行期間は21年3月22日まで。
 また市民会館の改築に向けて市は市民会館の整備検討懇談会(座長・黒田達朗椙山女学園大現代マネジメント学部教授)を設け、議論を進めている。現市民会館(中区金山1−5)の老朽化などの課題を解消するため、現地と古沢公園(同1−3)などを含む敷地約5200㎡に新施設を建設する。
 21年3月ころに市民会館改築事業の基本構想を策定する。
 現市民会館は改築し大ホール(客席数2000−2200席)、演劇などに対応する第3ホール(800−900席、立ち見で1700−1800人程度)を、古沢公園には中ホール(1300−1500席)を整備する。

 

新市民会館を中核に/20年度末までに方向性/名古屋市の金山駅周辺まちづくり | 建設通信新聞Digital

 理想を言えば、市民会館のある区画は金山駅周辺で最も広い市有地であることから、商業施設やイベントスペースを備えた賑わいの核としての機能を求めたかったところですが、その前提となる古沢公園への市民会館移設は、敷地面積から相当無理があったと思われるので、高品質な劇場機能を確保するためには妥当な判断だったものと思います。

 一方で、市民会館は劇場であり、常時集客や賑わいを生む施設ではありません。そのため、改築する新しい市民会館には、劇場機能だけでなく、イベントの開催が可能なオープンスペースや最低限の商業施設を設けるなどして、金山駅周辺の恒常的な賑わい創出に資する機能を持たせることが重要であると考えます。

 モデルとする施設としては、東京国際フォーラム(東京都千代田区)でしょうか。東京国際フォーラムはコンサートホールや多目的ホールからなるコンベンションホールですが、敷地内にはオープンスペースがあり、そこには飲食店やベンチも設けられています。このため、施設内でイベントが開催されていない日でも多くの人が立ち寄ることのできる施設になっているのが特徴です。

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東京国際フォーラムWikipediaより)

 長距離高速バス専用ターミナル(仮称「バスタ金山」)の整備

 これは金山駅周辺まちづくり構想には含まれていないものですが、名古屋市は、金山駅の線路上に長距離高速バス専用のターミナル(仮称「バスタ金山」)を設置することについて検討しているようです。イメージとしては、新宿駅に開業したバスタ新宿といったところでしょうか。これは2020年6月の市議会本会議で明らかにされたものです。

 現在、名古屋を発着する長距離高速バスの大半は名古屋駅に集中していますが、相次ぐ格安高速バスの参入により、名古屋駅周辺ではバスの発着場所不足が課題となっています。金山駅への長距離高速バス専用のターミナル整備は、長距離高速バスの発着場所を名古屋駅金山駅とに分散させることで、名古屋駅周辺への集中を防ぐ狙いがあるのでしょう。

 現実的な「バスタ金山」の設置位置は、金山駅の構造物やバスの待機・転回スペースなども考慮すると、金山駅直上ではなく、伏見通の西側になるのでしょうか。付近の道路構造も考慮に入れると、設置イメージは次のようなものになると予想しています。

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バスタ金山(仮称)設置イメージ

 このような形で「バスタ金山」を整備した場合、伊勢湾岸自動車道名古屋高速3号大高線・4号東海線を経由して名古屋市内の南方向から進入する高速バスは、名古屋駅に到着するよりも距離と所要時間を短縮できます。乗り場を集約することで利便性も向上することから、バス事業者、利用者双方にとってメリットがある構想と言えそうです。

 ただ、線路上に構造物を建設するという大掛かりな工事が必要になるため、実現に向けた技術的な課題は相当なものと思われます。

 なお、バスタ事業は、バスタ新宿の成功を受け、国土交通省が全国に整備を推進する方針を打ち出したものです。新宿駅に続き、現在は東京都の品川駅、神戸市の三ノ宮駅神戸三宮駅周辺のほか、札幌駅、仙台駅、新潟駅、呉駅、大宮駅、長崎駅でも導入に向けた検討が行われているようです。名古屋市もこれに飛びついた感が否めません。おそらく将来的には国の補助金事業となることを睨んでいるのでしょう。

 とは言え、名古屋駅に集中する長距離高速バスの一部を金山駅に振り向けることには一定の効果が見込めると思いますので、技術的な課題を克服し、実現されることを期待しています。

【国交省】交通結節拠点化「バスタプロジェクト」全国展開へ 官民連携で高速バス乗降場を集約 | 建設通信新聞Digital

最後に

 金山駅で電車を降りると、改札付近の混雑や駅前の賑わいに驚かされます。駅付近の道路にも多くの飲食店が立ち並び、夕方から夜にかけての時間や週末にはたくさんの人が行き交うのが金山駅の特徴です。その賑わいは首都圏の駅前と比べても決して劣っておらず、国内有数のターミナル駅としての風格を感じられます。

 金山駅は、1989年、名鉄金山橋駅の移設とJR東海道線金山駅の開業によって誕生した新しい駅で、その経緯から金山総合駅とも呼ばれます。総合駅となった後の発展は目覚しく、駅の乗降客数の増加に伴って、1999年には駅南口に高さ130mの超高層ビル・金山南ビルが、2005年には駅北口にアスナル金山がそれぞれ開業し、駅周辺の賑わいも増していきました。

 しかしそれ以降、金山駅周辺の開発事業はいったん停滞し、現在に至ります。

 これだけ巨大なターミナル駅でありながら、2020年までの15年間、大規模な再開発が行われることがなかったのは、正直不思議でなりません。その間に名駅は国内屈指の超高層ビル街となり、名駅への対抗から、栄でも最近になって再開発事業の動きが活発になっています。

 複数路線の乗降客数を合計した数字であるとは言え、1日に約46万人が利用する駅というのは、首都圏を除けばそうそうあるものではありません。金山駅周辺の再開発は、それだけの規模を持つ駅周辺でのまちづくりです。

 金山駅は、名古屋駅に次ぐ名古屋第2の玄関口であり、そして名駅、栄に並ぶ名古屋の一大拠点です。ライバルは多い方がいいですし、都市の魅力を厚くする上でも、拠点となる地区の数は多い方がいいでしょう。

 将来、金山駅が名古屋の副都心として目覚しく成長を遂げることを強く期待しています。

名古屋都心に新交通システム導入へ その名も『名古屋SRT構想』

名古屋SRT構想とは?

 名古屋市は、将来のリニア中央新幹線の開業を見据え、市中心部の回遊性向上を目的とした新しい路面公共交通の導入を目指しています。その名も、SRT(スマート・ロードウェイ・トランジット)

 SRTとは、名古屋市が平成29年(2017年)に策定した「新たな路面公共交通システムの導入に係る基本的な考え方」の中で示された新しい路面公共交通システムの名称です。この考え方において、SRTは『LRTやBRTの優れた点を持ち合わせつつ、「わかりやすさ」「使いやすさ」「楽しさ」を備え、成長性のある、革新的で魅力的なタイヤベースシステム』と定義され、その後、平成31年(2019年)に策定された「SRT構想 新たな路面公共交通システムの実現を目指して」において、これをSRT(スマート・ロードウェイ・トランジット)と呼称して導入を進めることとされました。

www.city.nagoya.jp

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SRT導入イメージ(名古屋市−SRT構想より引用)

 SRTは、世界のどの都市にある路面公共交通システムとも異なるもののようで、具体的な姿はあまり見えてきません。現在のところは、LRTとBRTを組み合わせた新しい路面公共交通システムと表現されているのみです。

 この点について、いちおう、前述の名古屋SRT構想の中でSRTの具体像が示されているので、これを簡単にまとめてみました。

名古屋SRT構想の概要

1 車両

 SRTの車両は、広い車内空間を確保し、バリアフリーにも配慮したフラットな空間となるようです。このため、SRTに用いられる車両の特徴は、バスよりもLRTに近いものとなりそうです。タイヤベースによる交通システムであるため、外見は連節バスに似てくるものと予想されます。

 なお、フランス・メスには「BusTram」と呼ばれる公共交通機関があり、これがタイヤベースの車両でありながらLRTの車両にとても似ています。実現されたSRTの車両は、このような形になるのではないかと思われます。

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フランス・メスのBusTram(Wikipediaより引用)

 また、車両には運転手を補助する運転補助機能を搭載するほか、連節車両や隊列走行により大量輸送に対応するとされています。この他、環境負荷低減のため、走行時のCO2排出量が少ない燃料電池車を採用することも明記されています。

2 走行空間

 SRTの走行空間にはピクトグラムや走行レーンの着色を行い、街の中での存在感を高めるとされています。また、歩道車線側の専用レーン化や公共交通の走行を優先させる仕組みを検討し、渋滞等による運行の遅延を低減するともされています。

3 乗降・待合空間

 SRTの乗降場所は、街の回遊拠点として機能するよう、デザイン性の高い上屋とすることや、公共Wi-Fiの整備、情報提供端末の設置などを行うとされています。車両と乗降場所との間の段差が小さくなるよう配慮し、シームレスでバリアフリーな乗降環境を確保するともされています。

4 路線

 SRTのルートは、周回ルートと東西ルートの2路線が検討されています。

 周回ルートは、名古屋駅・栄のほか、大須地区、名城地区を結ぶことで、都心全体の回遊性を高めるものとされています。東西ルートでは、名古屋駅と栄という都心の2大拠点を結ぶことで、両地区の連携強化と沿道の活性化を図るとされています。

5 運行サービス

 SRTは、基幹路線として、早朝から夜間まで、概ね10分以内の間隔を基本とした高頻度での運行を想定するものとされています。料金収受の仕組みについては、車内での収受を減らすため、ICカード等のキャッシュレスや乗降・待合空間への券売機設置などを念頭に置くものとされています。

 

 以上が、名古屋市が発表した名古屋SRT構想から読み取れるSRTの具体像です。

 全体的な中身としては、すでにフランス・ルーアンで導入されているBRT(TEORにかなり似ているという印象を受けました。フランス・ルーアンのBRTシステムについては、下記のリンクで詳細に述べられています。

www.fujii.fr

www7b.biglobe.ne.jp

 フランス・ルーアンのBRTシステムでは、連節車両による大量輸送と高頻度運行、シームレスでバリアフリーな乗降環境の確保、走行レーンの専用化、自動運転技術による運転補助の仕組みも導入されるなど、名古屋市が提唱するSRTの姿にかなり近い運用が行われているようです。

 このように見ると、名古屋市が提唱するSRTとは、諸外国の都市で導入されているBRTの進化版と言ったところになるのではないでしょうか。

名古屋市における路面公共交通の必要性

 ところで、なぜ、名古屋市は新たな路面公共交通システムの導入について検討を始めたのでしょう。名古屋市の都心には、路面公共交通がなくとも、名古屋駅や栄、大須地区、名城地区をそれぞれ結ぶように名古屋市営地下鉄の路線が走り、これを使えば移動には困らないようにも思います。

 この点についても、先の名古屋SRT構想は、整備の必要性について次のように述べています。

 名古屋SRT構想は、名古屋市の都心は自動車交通を中心とした幅員の広い道路により、人の流れや賑わいの連続性が分断されていると指摘します。また、都心内の移動についても、特に地下鉄による移動には課題があるとし、具体的には、東山線名古屋駅ー栄駅間で慢性的な混雑が生じていること、大須地区と名城地区への移動には乗り換えが必要であることを指摘しています。他にも、路線バスは不慣れな人にとっては乗り場や行き先がわかりにくいこと、地下鉄やバスによる移動は重い荷物を持った観光客や高齢者にとって負担が大きいことを挙げ、これらの課題を解消し、名古屋市の魅力向上とリニア中央新幹線の開業によって増加が見込まれる来訪者の利便性を高めることが求められるとされています。

 確かに、名古屋市の都心は東京や大阪に比べると狭い範囲に様々なスポットが収まっていますが、それらのスポットを移動する手段は、乗換が必要な地下鉄や雑多な市バスに頼らざるを得ません。特に、名古屋駅から名古屋城、あるいは大須へ地下鉄で移動する場合は、必ず1回、路線を乗り換える必要があります。また、観光客が宿泊するホテルの多くは名古屋駅や栄に集中していますが、名古屋駅と栄を結ぶ地下鉄東山線は駅構内や車両が狭く、常に混雑していますし、地下鉄桜通線は駅が地下深くにあるため、階段やエスカレーターによる移動距離が長くなっています。こういった点は、キャリーバッグや重い荷物を持った観光客にとっては不便な移動環境であると言わざるを得ません。このような事情を踏まえると、都心を最小限の労力で移動するための路面公共交通システムには、一定の需要がありそうです。

 つまり、名古屋SRT構想とは、地下鉄や市バスよりも使いやすい、便利な公共交通機関を整備する構想なのです。

 実現に向けた課題は?

 名古屋SRT構想は、名古屋市内の魅力と利便性を向上させる仕掛けであり、筆者も実現を楽しみにしています。2020年10月には、連節バスと燃料電池車を用いた走行実験をが行われ、すでに実現に向けた具体的な事業が進められています。

 一方で、名古屋SRT構想を参照した感想としては、正直なところ克服すべき課題が多いと感じざるを得ません。主なものについては、次に指摘するとおりです。

1 交通事故の防止策

 名古屋市の都心は幅員の広い道路が東西南北に走り、交通量も多くなっています。とりわけ、何車線もある交差点での右折には車線変更が必要となって、車体の大きなSRTには厳しい走行環境となるでしょう。

 名古屋SRT構想では、SRTの車両は道路の歩道車線側を走行するとされており、基幹バス新出来町線のように、道路の中央を走行する方式は採用されない計画です。しかし、道路の歩道車線側を走行する場合は、路上駐車された車両が障害となったり、右折のための車線変更時に他の車両と接触する可能性が拭えず、安全な走行空間をどのように確保するかが課題となります。

2 定時性の確保

 決められた時刻どおりに運行することも、SRTの大きな課題となりそうです。

 名古屋SRT構想でも、路線バスは道路状況によって遅れが生じることが指摘されていることから、SRTは路線バスに比べて定時性に優れた交通機関を目指していることが読み取れます。そのための具体的な方法として、歩道側車線の専用レーン化や公共交通の走行を優先させる仕組みを検討し、渋滞等による運行の遅延を低減することが挙げられています。

 なお、諸外国におけるBRTの導入事例では、BRTの走行空間を他の道路交通と完全に分離したものも見られますが、SRTではそのような整備は行われないようです。

3 料金収受の方法

 これは定時性の確保とも関係しますが、バスにおいて大量輸送を指向する場合は、料金収受の方法がネックになります。

 バス車両は一般的に、1つの扉から乗降し、その出入口で料金を収受するため、料金収受にトラブルがあった場合はその対処のために発車が遅れます。よくICカード接触不良や残高不足、両替のために路線バスの発車が遅れることがありますが、この問題は、大きな車両で多くの人を運ぶ場合により顕著となります。とりわけ、SRTは名古屋市内の移動に不慣れな観光客の利用を多く見込むことから、料金収受に係るトラブルが多くなるでしょう。

 また、乗降空間での乗降方法については、一度に多くの人の乗降を行うことができるよう、鉄道のように複数の扉から同時に乗降する方法が検討されているようですが、その場合、それぞれの扉で生じた料金収受のトラブルに速やかに対処できる仕組みが必要です。路線バスでは、料金収受に生じたトラブルには運転手が対応しますが、これは、料金収受を運転席の隣で行うからできることです。

 SRTでは、多くの乗客がスムーズに乗降し、料金収受にトラブルが生じた場合には速やかに対応することで、発車時刻の遅延を防ぐ仕組みを講じることが必要です。

SRTの課題を克服する方法

 以上に指摘した課題は、SRTの導入において克服すべき課題のごく一部であると思いますが、それらの中でも筆者が、特に「どうするんだろう」と感じたものです。

 SRTの具体的な導入方法は、今後、名古屋市が検討していくことになりますが、個人的にこのようにすればこの課題は解消できるのではないかと思う方法がありますので、これについてもお示しすることとします。

1 中央走行レーンの採用

 名古屋SRT構想では、乗降のしやすさなどから、SRTの走行空間を車道歩道側としていますが、この場合、路上駐車への対応や右折時の安全性の問題、定時性の確保といった難しい課題を抱えることになります。筆者が思うに、こういった課題を抜本的に解決するためには、SRTは道路中央を走行させ、他の道路交通から切り離された走行空間を確保する必要があると考えます。

 道路中央を走行する場合、他の道路交通から切り離された走行空間を確保することが容易ですし、右折のために車線変更が生じることもありません。路上駐車が障害となることもなく、SRTの安全性の向上と定時性の確保にもつながります。すでに名古屋市では、基幹バス新出来町線において中央走行方式が採用されていますし、これをグレードアップする形でSRTに導入することは十分可能であると考えます。

 なお、道路の中央をSRTが走行する場合は、広い道路の中央まで安全で円滑に移動できる道路環境を整備する必要があります。このため、乗降空間には歩行者専用信号などを設置するなどして、歩行者を優先とした道路環境の構築に努める必要があります。

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道路中央を走行するBRT(パキスタン・カラチ)

2 都心における交通量の抑制

 SRTの導入に当たっては、都心に流入する道路交通の抑制も検討する必要があると考えます。中央走行レーンを採用した場合、都心の道路空間を大幅に再構築することにななると思われますが、SRTの快適な走行空間を確保するためには、車線数を削減して専用レーンを確保することもやむを得ません。

 この場合、SRTの整備によって車線が減少する道路での交通渋滞や、並行する道路における交通量の増加といった悪影響が懸念されます。こうした影響を最小限にするためには、都心へ乗り入れる自動車をできる限り抑制する取組みが必要になるでしょう。

 この点については、少々大胆なものになりますが、名古屋高速道路名古屋市営地下鉄の料金・運賃について割引きや値下げを行う、あるいは、都心にあるコインパーキング等には「駐車場税」を課すといった方法により、都心に流入する自動車を抑制する方策を検討する必要があると考えます。

3 改札を用いた料金収受 

 先にも述べたとおり、SRTでは1つの車両で大量の乗客を輸送することから、乗降は複数の扉による方法が検討されています。この点については、料金収受のトラブルを防止するため、車両で料金を収受するのではなく、乗降場所に改札を設け、あらかじめ改札による料金収受を行うことが適当ではないかと考えます。

 例えば、乗降場所にICカードリーダーを設置し、乗車前にICカードで料金収受を行うようにすれば、あとは車両に乗り込むだけです。運賃を均一にすれば降車時にも料金支払いが生じないため、料金収受のトラブルにより発車が遅延することはありません。

 なお、この場合、乗降場所には料金収受がされていない者の進入を防ぐ設備が必要になります。

 ちなみに、SRTにおける料金収受は、ICカードによってのみ行うのがよいと考えます。券売機によって切符を販売する場合、現金の管理や切符の補充、改札機の設置といった乗降場所の管理に手間とコストを要しますが、ICカードで料金を収受する方法なら、ICカードリーダーを設置するのみでよく、現金の管理や切符の補充を行う必要がありません。また、ICカードへの残高チャージはコンビニや地下鉄駅などの券売機でもでき、新規のカード発行も地下鉄駅などの券売機で行うことができます。

 SRTの乗降場所には乗車のための最低限の設備のみ設置し、現金の管理が必要となるICカード用のチャージ機や券売機は設置しないものとします。

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改札を設置した乗降場所のイメージ(ブラジル・クリチバ

 運行ルート

 最後に、SRTの運行ルートについて考えてみようと思います。

 SRTの具体的な運行ルートは2020年10月時点で未定ですが、名古屋SRT構想では、名城地区・大須地区などを回遊する周回ルート、名古屋駅と栄を結ぶ東西ルートの2系統が検討されています。

 当ブログではそれぞれのルートについて、概ね次のようなルートになるのではないかと予想(というよりも期待)しています。 

1 周回ルート

 周回ルートは、名古屋駅を起点として、観光客が多く訪れる名城地区や大須地区付近を通過するルートとなる予定です。また、都心全体の回遊性を高めるため、地下鉄駅から離れた観光スポット付近にも乗降場所が設けられるとのことで、当ブログでは、名古屋市科学館のある白川公園、レトロな街並みが人気の円頓寺・四間道の周辺に乗降場所が設置されるのではないかと予想しています。

 また、SRTは、安全な走行空間を確保するため、可能な限り幅員の広い道路を走行することが望ましいことから、都心でも特に幅員の広い桜通や伏見通、若宮大通は、運行ルートの有力候補であると考えています。

2 東西ルート

 2020年10月、広小路通の名古屋駅ー栄間において、連節バスと燃料電池バスを走行させての実証実験が行われました。このことから、東西ルートは広小路通を走行することがほぼ確定しているものと予想します。

 道路の幅員から考えると、広小路通の北を並走する錦通が最適であると思われますが、沿道の賑わいやSRTに期待されるシンボル性を考慮すると、運行ルートとしてふさわしいのは、長らく都心のメインストリートとして定着している広小路通でしょう。

 ただし、広小路通は道路の幅員が狭く、交通量は多いことから、新たに路面公共交通を整備するには厳しい道路環境です。特に、SRTが歩道側車線を走行する場合は路上駐車に対応する場面も多くなり、安全性や定時性の確保が課題となります。

 この点、先述のとおり、SRTの専用レーンを道路中央に設けることで課題の克服は可能であると考えていますが、専用レーンを整備すると、片側2車線のうち1車線がSRTの専用レーンになり、広小路通とその周辺では交通渋滞が悪化することが見込まれます。

 交通混雑への対処については、先にも述べたとおり、都心へ流入する自動車を抑制することが重要であると考えていますが、SRTが広小路通を走行する場合はさらに踏み込んで、錦通への誘導や沿道における駐車場整備の規制といった取組みが必要になると思われます。

 なお、当ブログが提案する東西ルートは、運行区間を栄から東へ延伸し、終点を千種駅とします。これは、栄地区以東の広小路通にもホテルやライブハウスなどが点在していることから、栄地区の賑わいをさらに東方向へ波及させることを目的として、東西ルートをさらに延伸させることとしたものです。

最後に

 2027年以降に予定されるリニア中央新幹線の開業に向け、名古屋市の都心では、今後も都市の魅力を高める様々な取組みが進められる予定です。名駅や栄では民間企業による大規模な再開発事業が計画され、都心を移動する公共交通機関の需要は高まっていくことでしょう。

 新たな路面公共交通システムとして導入されるSRTは、そうした需要の高まりに応えながら、名古屋市の都心を移動する際の利便性を飛躍的に高める効果が期待されます。

 路面公共交通は、近年、国内各地で注目されるようになり、富山市宇都宮市LRTを活用したまちづくりが進められている他、東京都も臨海部と都心を結ぶBRTを2022年以降に本格的に運行する予定です(2020年10月現在ではプレ運行中)。

 このような流れの中で、名古屋市LRTやBRTとは異なる先進的な路面公共交通システムの導入を掲げたことは、とても楽しみなことだと感じています。

 新型コロナウイルス感染症が落ち着けば、再び国内や世界各地から観光客が名古屋市へやってくるでしょう。SRTの開業目標は2027年以降とまだまだ先ですが、これからの名古屋の変化をリードする存在として、今からその実現を心待ちにしています。

ささしまライブ・名駅南地区発展の切り札「JR・名鉄ささしま新駅」 もし本当に実現したら・・・

  2017年4月、名古屋駅の南に、オフィスや商業施設、大学、放送局からなる名古屋市内の新しい拠点エリア「ささしまライブ地区」が誕生しました。

 すでに周知のとおり、ささしまライブ地区には、5つの学部を持つ「愛知大学名古屋キャンパス」や109シネマズを核とする商業施設「マーケットスクエアささしま」、高さ170mの高層棟などからなる複合施設「グローバルゲート」、昭和区から移転した中京テレビ新社屋などが所在し、ビジネスから娯楽、教育に至るまで、幅広い目的を持つ多くの人が訪れるエリアとなっています。

 しかし、2017年のまちびらきに合わせて予定されていた名古屋駅からの地下道整備の遅れにより、ささしまライブ地区はアクセス性に弱点を抱えたままの船出となりました。このことが原因で、地区内の商業施設は集客に苦戦しているのではないかとの指摘も見受けられます。

 実際、グローバルゲートに入居していた店舗の一部は2020年4月までに撤退しており、この年は新型コロナウイルスの影響もあったとはいえ、撤退となればやはり元から集客の面で苦戦していたことが影響しているのではないかと推察されるところです。

 なお、ささしまライブ地区への交通手段は徒歩の他、あおなみ線名古屋駅からささしまライブ駅まで1区間乗車するか、名鉄バスが運行する「ささしまウェルカムバス」に乗車するかのいずれかです。どちらの手段も運賃は210円で、あおなみ線の場合は乗車2分、ささしまウェルカムバスの場合は乗車4分でささしまライブ地区に到着します。

 しかし、あおなみ線はJR名古屋駅と改札を共有しておらず、地下鉄や名鉄近鉄からの乗換は不便です。特に名鉄近鉄からは、太閤通口側にあるあおなみ線改札に向かうにはJR名古屋駅を大きく回り込むように移動する必要があり、それだけで10分程度の時間がかかります。加えて、あおなみ線の運行本数はピーク時でも10分間隔で、それ以外の時間帯は15分間隔になることから、乗換に要する時間や発車を待つ時間を考えると、徒歩の方が早く到着できる場合がほとんどです。ささしまウェルカムバスの場合は乗換に要する時間こそあおなみ線ほどかかりませんが、バスはごく一部のピークタイムを除いて概ね10〜15分間隔で運行されており、あおなみ線と同様に徒歩の方が早いという場合があります。

 運賃と乗換の手間がかかるのに所要時間は徒歩と変わらないというだけで、その交通機関は常に選択される手段にはなりません。結果として、名古屋駅からささしまライブ地区への主要な移動手段は徒歩という状態が続いています。

 ささしまライブ地区の微妙な立地から、整備を推進した名古屋市も徒歩が最適な移動手段であることを当初から認識していたようで、再開発計画の初期段階から、名駅地区の地下街から地下道を建設する計画が立てられました。

 しかし、河村たかし名古屋市長の「(隣接する)名駅南地区の賑わいが失われる」という主張により地下道整備は遅延し、2017年のまちびらきから3年が経過した2020年になっても、地下道は建設されないままとなっています。

 なお、遅れていた地下道の整備について、名古屋市は2027年までの整備を目指し、令和2年度予算に設計費等を計上しました。建設の遅れに業を煮やしたささしまライブ地区の進出企業から、早期整備を求める声が強まったことが背景にあると言われていますが、実はこの予算には、名駅南地区の賑わいを創出に向けた調査費やJR・名鉄線に新駅を設置することが可能かを調査する調査費も含まれているとのことでした。

愛知)ささしま地下道設計へ 名古屋市新年度予算案(朝日新聞2019年2月2日)

 名古屋市中村区の再開発地区「ささしまライブ」と名古屋駅を結ぶ地下道整備について、市は新年度、基本設計に入る方針を固めた。計画を止めていた河村たかし市長が条件付きでの整備容認に転じていて、2027年までの完成を目指し、建設実現への一歩を踏み出す。

 関係者によると、新年度予算案に基本設計の費用など数千万円を計上する。河村氏が求めている名駅南エリアのにぎわい創出や、ささしまライブ地区への新駅設置の実現可能性を探る調査費も盛り込む。

 地下道は「笹島交差点」と「下広井町交差点」の南を結ぶ約400メートルに計画。ささしまライブが開業した17年度に完成する予定だったが、河村氏が「地上のにぎわいがなくなる」などとして計画を止め、ささしまライブ地区への進出企業が早期整備を求めていた。

 河村氏は昨年6月、名駅南エリアのにぎわい創出や地下道に整備する「動く歩道」などの快適な移動手段を地区につなげることなどを条件に、地下道整備を容認する考えを示していた。(堀川勝元)

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 地下道が整備されれば、名古屋駅からささしまライブ地区までの流動のほとんどは、新設の地下道を通るようになるでしょう。河村市長は、これにより名駅南地区の賑わいが失われることを懸念し、地下道の整備にあたっては、名駅南地区にも賑わいが波及するよう、整備する地下道を名駅南地区にも接続することや、JR・名鉄線に新駅を整備し、抜本的に賑わいを生み出す方策を検討するよう市長部局に指示しているとのことでした。

 なお、名駅南地区は、主に名駅通から東側、広小路通よりも南側の一帯を指します。地区内には雑居ビルやマンション、駐車場が点在し、商業地や繁華街という性格はほとんどありません。しかしながら、近年は劇団四季名古屋劇場が移転・開業し、名古屋市内最高層となるタワーマンションの建設が進むなど、名駅に近いという立地を生かし、徐々に開発が行われるようになりました。

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NAGOYA the TOWERイメージバース(住友商事プレスリリースより)

 しかしながら、地下道を名駅南地区に接続したとしても、そもそも名駅南地区に目的地がなければそれらの流動を名駅南地区に誘導することはできません。問題は、名駅南地区に何があるのかということになるからです。

 最近は徐々に開発が進んでいるとは言っても、正直なところ、名駅南地区にはさらなる発展の下地がありません。その理由は、名駅南地区が抱える交通アクセスの問題です。

 名駅南地区はささしまライブ地区のようにあおなみ線も走っていませんし、交通アクセスの面から見て、今後さらなる開発が進んで賑わいが生み出される条件が整っているとは思えません。

 河村市長が本気で名駅南地区を発展させたいのならば、やはり抜本的に名駅南地区の交通事情を改善させることが必要でしょう。

 

 そこで、先ほど引用した記事にあるとおり、ささしまライブ・名駅南地区を通過するJR・名鉄線に新駅を設置することはできないか、その実現可能性についても調査が行われることとなりました。

 

 ささしまライブ・名駅南地区ともに名古屋駅とは至近距離にありますが、いずれも名古屋駅から徒歩20分程度かかる立地であるため、やや心理的な距離が生じてしまうように感じます。そして、それは地下道を整備しても大きく変わるものではないと思われます。

 結局のところ、ささしまライブ地区も名駅南地区も、抜本的に交通アクセスを改善させる方法としては、JR・名鉄線に新駅を設けるということ以外に思い当たりません。新駅の設置によりJR・名鉄線から直接ささしまライブ・名駅南地区を訪れることができるようになれば、少なくともJR・名鉄の利用者は、名古屋駅を経由することなくささしまライブ・名駅南地区にアクセスできるようになります。

 では、JR・名鉄線に新駅を設置することは実現可能なのでしょうか。

 まず、ハード面から言えば、莫大な投資を行うことで駅の設置は可能かと思われます。

 具体的には、名鉄名古屋本線の「新名古屋地下トンネル」を南へ延伸し、名鉄線の新駅は新名古屋地下トンネル内に設置、名鉄名古屋本線の地下化によって地上部に生じた空地を活用してJR線の高架を拡張し、JR東海道線・中央線に新駅を設置するというものです。

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新名古屋地下トンネルの延伸区間

 なお、名鉄名古屋本線については、名鉄近鉄名古屋駅において大規模な再開発事業が計画されているため、これに歩調を合わせます。

 ハード面においては、用地があればなんとか駅を設置することはできるでしょう。問題はソフト面、とりわけ列車の運行ダイヤに与える影響をJR東海名古屋鉄道が許容するかどうかというところにあると思います。JR・名鉄ともに、この区間は最も多くの列車が通過する区間であり、新駅の開業は列車の運行ダイヤに多大な影響を与えます。

 このため、JR・名鉄がダイヤを大幅に変更してもなお新駅に利点を見出さなければ、JR・名鉄の合意を得ることはできません。

 名古屋市側が新駅を設置することを「お願い」したとして、まずは需要が見込めるかどうかという課題が存在します。需要の点については、新駅の開業に合わせた再開発を誘導するなどして、新駅とささしまライブ・名駅南地区の価値を高める必要があると考えます。

 例えば、新駅構想地の西側に隣接する商業施設「マーケットスクエアささしま」を再開発し、駅と直結した複合施設に作り替えるといったことが考えられます。

 「マーケットスクエアささしま」は、東急不動産が土地所有者の名古屋市から2020年度末までの事業用定期借地権を取得し、2005年に開業した商業施設です。2017年には契約期間を2030年度末まで延長する契約更新があったようですが、借地権の性格上、契約期間の満了後は建物を解体して土地を返還しなければなりません。

 新駅の整備を2030年以降に見込めば、新駅に直結する駅ビルを建設するなどして駅の価値を高め、ささしまライブ・名駅南地区の集客力を大幅に強化することができるでしょう。

 また、駅ビルと新駅を東西に貫通する自由通路を設けることで、新駅からの人の流れを直接ささしまライブ・名駅南地区へと誘導できるようにします。

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新駅と新駅直結の駅ビル配置イメージ

 さて、ここまでほとんどが筆者の個人的な妄想のような内容となっていますが、そもそも新駅設置の実現性を検討するよう指示をしたのは、地下道整備によって名駅南地区の賑わいが失われてしまうことを懸念した河村たかし名古屋市長です。

 ここまで地下道整備を遅滞させて熱心に名駅南地区の賑わい創出に取り組んでこられた河村市長はすでに認識されていることでしょうが、名駅南地区を本気で発展させようと考えるのであれば、これくらいの事業を行わなければ結果は見込めないと思います。そして、JR・名鉄線に新駅を設置することは間違いなく、ささしまライブ地区と名駅南地区を劇的に変貌させるきっかけになるものでしょう。

 

 東京では、渋谷と原宿、東京と有楽町のように、ターミナル駅に近接した小規模な駅周辺の地域でも、それぞれ異なる地域としてアイデンティティーを確立し、多くの人を呼び込む原動力となっています。

 もしJR・名鉄線に新駅を設置したとしたら、名駅地区とささしまライブ・名駅南地区の関係性も、渋谷や原宿、東京と有楽町に近い関係になるのかもしれません。そしてこれは、地下道を伸ばすだけでは起こり得ない効果です。

 JR・名鉄線に新駅を設置することの実現可能性は、ハード・ソフトの両面から相当困難であることが容易に想像されます。しかし、行政が予算を付けて調査を行うとした以上、「ささしま新駅」という構想に一つの可能性が示されることでしょう。

 今後の調査結果に注目しています。

名古屋市営地下鉄延伸計画 上飯田線・桜通線編

 名古屋市内の移動手段として広く定着している名古屋市営地下鉄は、東山線桜通線鶴舞線名城線名港線上飯田線の計6路線、総延長93.3㎞に及ぶ路線網を形成しています。

 しかしその一方で、名古屋市営地下鉄には総延長約50kmにも及ぶ未開業区間が存在することをご存知でしょうか。

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名古屋市営地下鉄路線図(名古屋市交通局より)

 1992年(平成4年)、当時の運輸省に設置された運輸政策審議会が、2008年(平成20年)度を目標とした名古屋圏における鉄道網の整備計画を策定し、運輸大臣に答申しました。以後、「名古屋圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について(以下、平成4年答申)」と題されたこの答申に基づき、名古屋市を中心とした鉄道網の整備事業が進められてきました。

 このうち、名古屋市営地下鉄の路線として整備が計画されたものの、現在も開業の目処が立っていない路線は、次の4路線5区間となっています。

  • 上飯田線平安通ー丸田町)
  • 東部線(笹島ー高針橋)
  • 金山線(戸田ー楠町)
  • 桜通線(中村区役所-七宝、徳重ー豊明北)

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平成4年1月10日答申第12号による新設鉄道路線図(Wikipediaより引用)

 これらの路線は景気低迷や少子高齢化といった社会情勢の変化を受けて事実上凍結され、名古屋市営地下鉄の整備事業は、平成23年に開業した桜通線野並駅ー徳重駅間を最後に、総延長約50kmの未開業区間を残したまま終了した状態となっています。

 これとは対照的に、東京圏や大阪圏では、近年も新たな地下鉄整備事業が積極的に進められています。

 東京圏では、江東区東京地下鉄8号線(半蔵門線住吉駅有楽町線豊洲駅)の事業化について検討しているほか、東京都も都営大江戸線の延伸を検討しています。

 大阪圏でも、大阪市が2025年開催の大阪・関西万博の会場となる夢洲へ大阪メトロ中央線を延伸する事業を進めているほか、東京圏、大阪圏以外の都市圏でも、福岡市(福岡市営地下鉄七隈線の延伸、令和4年度開業)や仙台市仙台市営地下鉄東西線の整備、平成27年開業)で地下鉄の延伸や新線建設が進められているのを見ると、未開業区間が残っていながらそれらの整備に向けた動きが全く見られない名古屋市の現状は、かなり寂しいものと言わざるを得ません。

 なお、名古屋市営地下鉄の整備計画の基本となる平成4年答申は、すでに策定から28年を経過し、答申どおりの路線整備は時代や都市の現状にそぐわないとも考えています。

 そこで本稿では、今後、名古屋市における地下鉄整備に向けた機運が高まることへの願いも込めて、平成4年答申にこだわらない新しい名古屋市営地下鉄の整備計画として、筆者が特に整備効果が高いと考える上飯田線桜通線の延伸について提案したいと思います。

上飯田線の延伸案

 平成4年答申における上飯田線は、上飯田駅から丸田町駅までを結ぶ路線とされ、丸田町駅からは同じく答申路線の地下鉄東部線へ乗り入れて直通運転を行うものとされていました。

 しかし、東部線の整備は事実上凍結され、やむなく上飯田線は、名鉄小牧線の不便を解消するための範囲で着工し、2003年に上飯田駅平安通駅の1区間が先行して開業します。その後、残る平安通駅ー丸田町駅区間については、2009年、名古屋市交通事業経営健全化検討委員会第7回委員会において建設の凍結が提言され、事業化の目処は立っていません。

 筆者としては、名鉄小牧線から名駅や栄へ向かう場合の利便性を考えると、上飯田線を延伸すること自体の意義は失われていないと考えていますが、平成4年答申で接続先とされた東部線は、名古屋市内の都市開発の現状を鑑みるに、存在意義そのものがすでに失われてしまっているように感じます。そのため、上飯田線の延伸を推進するのであれば、東部線の整備と連動せざるを得ない現計画は見直し、新たな整備計画を検討する必要があると考えます。

ルート

 筆者が考える新たな上飯田線の整備計画は、新栄町駅東山線と接続した後に広小路通を西へ進み、笹島交差点を経由してあおなみ線ささしまライブ駅へ向かうものです。ささしまライブ駅付近では、あおなみ線との相互直通運転を実施します。

期待される整備効果

名鉄小牧線あおなみ線の利便性向上

 上飯田線を栄や笹島へ延伸することで、名鉄小牧線方面から名駅や栄へ向かう際の利便性が向上します。また、直通運転によりあおなみ線上飯田線に乗り入れることで、観光・交流拠点として開発が続く金城ふ頭と栄が結ばれ、名古屋市内の回遊性が高まります。

 なお、新設の笹島駅名古屋鉄道などが計画する再開発地区に隣接し、同様に栄駅も、名古屋市と大丸松坂屋が計画する「栄角地」再開発や建替計画が浮上している三越名古屋栄店に隣接するいわば一等地です。これからの名古屋を変えるであろう再開発地区を直接結ぶ路線となれば、東山線に代わる新たな名古屋の都市軸としての役割も期待できます。

ささしまライブ地区・名駅南地区の発展に寄与 

 上飯田線の起点となるささしまライブ地区は名古屋駅から離れており、交通アクセスの改善が大きな課題として認識されている地区です。上飯田線が延伸されることで、ささしまライブ地区は栄方面へのアクセス性が向上し、地区としての魅力が高まるものと思われます。

 また、新設の笹島駅は、今後発展が見込まれる名駅南地区に設置される地下鉄駅となります。ささしまライブ地区と同様に、名駅南地区も名古屋駅からの距離がネックであると指摘されていますが、上飯田線の延伸によりこの点は大幅に改善されることになるでしょう。

桜通線の延伸案

 桜通線には、中村区役所駅から西方面、徳重駅から南東方面それぞれに延伸計画が存在します。

 平成4年答申では、中村区役所駅から当時の七宝町(現あま市)までの区間徳重駅から豊明北、さらに豊田市南部方面までの区間について、整備の推進を図ることが適当であると答申していましたが、その後いずれの区間でも事業化に向けた動きは見られませんでした。

 筆者としては、平成4年答申に基づく延伸計画は両方面ともに完全に時機を逸しており、すでに延伸の必要性は失われているものと認識していますが、昨今の三河地域での人口動態をみるに、徳重駅から先の延伸については、経由地を東郷町みよし市とすることで、一定の効果を得られるものと考えています。

ルート

 平成4年答申による桜通線延伸計画は、徳重駅から豊明市北部を経由し、豊田市南部へ至る路線とのことでしたが、筆者が考える新たな桜通線延伸計画は、経由地を東郷町みよし市とし、終点は名鉄豊田市駅とするものです。

 近年の動向をみるに、平成4年答申で経由地に挙げられていた豊明市よりも東郷町みよし市で人口の増加が顕著となっており、また、終点となる名鉄豊田市駅でも、最近は駅前で大規模な再開発が実施されて地区の魅力が高まりました。

 これらのことから、桜通線徳重駅からさらに延伸する場合、平成4年答申のとおりに豊明市方面へ延伸するよりも、東郷町みよし市を経由して豊田市中心部へ直接乗り入れる方が整備効果が高くなるものと考えています。

 なお、名古屋市外への延伸となるため、徳重駅から先の区間については、周辺自治体や沿線企業によって構成される第三セクターが運行主体となることを想定します。これに伴い、徳重駅豊田市駅間の路線名称は、桜通線と区別するため、豊田新線(仮称)と表記します。

期待される整備効果

東郷町みよし市の鉄道空白地帯解消

 近年人口が増加傾向にある東郷町みよし市は、みよし市の北部を名鉄豊田線がわずかにかすめるだけで、町域・市域の大部分が鉄道駅から離れた地域となっています。豊田新線の整備により、こうした鉄道空白地帯が解消され、人口増加が続く東郷町みよし市の交通利便性が向上します。

 なお、東郷町では東郷中土地区画整理事業(セントラル開発)が施工中で、区域内には愛知県で2店舗目となる大型商業施設「ららぽーと」も進出します(2020年9月14日開業)。こういった動向も踏まえ、豊田新線の設置駅のうち、東郷駅(仮称)は東郷中土地区画整理事業の区域内に設けることを想定します。

名古屋駅豊田市中心部との直結

 名古屋市に次ぐ愛知県下第2の都市である豊田市ですが、市内を通過する名鉄線、愛知環状鉄道線には、ともに豊田市内の駅から名古屋駅までを直通する列車がありません。このため、愛知県は、リニア中央新幹線開業までに、名鉄三河線を経由した名鉄名古屋駅名鉄豊田市駅間の直通列車の運行について名古屋鉄道と協議することとしています。

 しかし、すでに名鉄名古屋本線のダイヤはかなり高密度で、これ以上列車を設定することは難しいのではないかと思われるところです。

 一方で、豊田新線の整備により、桜通線を経由した名古屋駅から豊田市中心部までの直通ルートが実現します。ただし、桜通線徳重駅から名古屋駅までの所要時間は約35分であるため、豊田新線を経由した場合の豊田市駅(仮称)までの所要時間は1時間程度になることが見込まれます。

 愛知県は、名鉄三河線を経由した優等列車の所要時間を約40分以内にすることを掲げているため、豊田新線をその代替案と考えるのであれば、桜通線内での快速運転を実現するなどして所要時間を短縮させる必要があるものと考えます。

最後に

 平成4年答申で示された名古屋市の地下鉄整備計画は、その後に予定されていた都市開発の動向に強く依存する内容でした。

 上飯田線の項で触れた「丸田町駅」は、東部線と金山線、上飯田線の3路線が乗り入れる予定の駅で、現在の丸田町交差点及び千早交差点付近に整備される計画でした。しかし、丸田町駅の位置は既存の鶴舞駅から少し距離があり、周囲に繁華街やビジネス街もない中途半端な場所です。

 これは、当時付近にあったサッポロビール名古屋工場の移転に伴い、その跡地で大規模な再開発が計画され、名古屋市の新しい副都心として整備されることが期待されていたためではないかと推察しています。2001年には、同工場跡地に、森ビルと豊田自動車が共同で複数の複合ビルを建設する大規模な再開発計画を発表しています。

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 結局、その後の景気悪化によって森ビルと豊田自動車は再開発事業から撤退し、同工場跡地には都市再生機構(UR)によってイオンタウン千種や社会福祉施設などが整備されました。

 平成4年答申における東部線は、この同工場跡地と、ほぼ同時期に再開発に向けた検討が行われていた旧国鉄笹島貨物駅跡地(現在のささしまライブ地区)とを結ぶ、名古屋市の新しい都市軸としての役割を期待された路線だったのではないかと推察しています。同工場跡地と旧国鉄笹島貨物駅跡地は、名古屋市を東西に横切る若宮大通で結ばれており、東部線はこの若宮大通を通る計画でした。

 なお、旧国鉄笹島貨物駅跡地の再開発も、当初は超高層ビルコンベンションセンターなどを建設する大掛かりな計画だったようですが、バブル崩壊の影響により停滞し、本格的な開発が開始されるのは2005年開催の愛知万博以降となります。

 いずれの再開発も当時の規模には及ばない事業に落ち着き、加えて、桜通線の開業により東山線の混雑も緩和されたことなどから、東部線は当初の整備の意義を失っていきました。当然、東部線よりも優先順位が低い金山線の整備に向けた検討が進むことはなく、平成4年答申で提言された名古屋市営地下鉄の新規整備区間の大部分は、整備の必要性を失うこととなったのです。

 一方で、近年は名駅地区や栄地区で再開発が進んだことで、通勤や買い物のために名古屋市内へ向かう人の流れが増え、名鉄名古屋本線JR東海道線では利用者数が増えているようです。三河地方でも人口増加が進み、刈谷知立安城といった主要な駅での乗降客数が伸びています。また、これまで郊外に拡散していた私立大学では、学生の獲得のため、都心の駅付近にキャンパスを移転する「都心回帰」の流れが加速しています。

 筆者の考えとしては、平成4年答申に基づく名古屋市営地下鉄の整備計画はもはやその意義を失ったものと考えていますが、名古屋市内における新たな地下鉄整備自体の意義が失われたとは考えていません。

 むしろ、今後やってくるリニア中央新幹線の開業などを考慮すると、都市圏全体の魅力や暮らしやすさを引き上げるための取り組みとして、名古屋市内と近郊を結ぶ地下鉄路線の強化は、積極的に検討する価値があるものだと考えています

 このような考えに基づき、本稿では先のとおり上飯田線桜通線延伸計画について述べました。

 皆さんは、名古屋市営地下鉄のさらなる延伸について、どのように考えますか。